コロナ禍でのAC
私の生き方連絡ノート 補足

 新型コロナ感染症は、多くの場合、軽症で回復する方がほとんどです。無症状の方も多いということが判ってきました。しかし、高齢者や基礎疾患のある方は、一部で重症化することがあるので、十分に注意を払って感染を予防するとともに、自身の状態を主治医・ケアスタッフから良く説明を受けて、現在の生活をより良くしていく好機と考えましょう。
 正しく恐れ、前向きに生活するきっかけとして『私の生き方連絡ノート』を有効に活用してください。

 当会の『私の生き方連絡ノート』では、病気や療養について、自身が意思表示できないことを想定して書く場合でも、いくつかの状態について想定し、考え、話し合っていくことをお勧めしています。
 さらに、新型コロナ感染症の場合、特に注意した方がよい点が出てきましたので、以下に挙げる点を参考にしていただければと思います。

1)新型コロナ感染症に感染した場合の療養の場所:

 現在、指定感染症ですから、原則およそ14日間の入院隔離ですが、軽症の方は、自宅または療養施設での隔離の場合もあります。この間、在宅療養を除き、原則として家族と面会は出来なくなります。特に、病気や後遺症で在宅療養をしている方・認知症で自分の感染が理解できない方の場合、本人の意思を確認するとともに、本人にとって大事なことは、幸せなことは何か?を考える必要があります。例えば、がんの末期の方が新型コロナ感染症にかかった場合、入院すると在宅で最期を迎えたいという本人の希望はかなわない可能性があります。さらに、入院中すると、家族の面会や看取りが難しくなってきます。そのような場合、たとえ重症になっても、在宅の希望を優先するか?中等症になった段階で入院先を探すか?(注:医療状況がひっ迫した場合すぐに入院先が見つからない場合もあります)、リスクを考慮して、最初から入院するか?をあらかじめ考えておく必要があります。
 認知症の方は感染を理解できないことも多く、入院に伴う環境の変化によって、混乱したり不安になって安静が保てない状態がみられます。この場合、もし可能なら、介護者を限定して感染防御しながら、在宅で出来るだけ療養するという選択もあります。
 また、在宅での看取りを希望されている療養者の場合、在宅診療チームと相談の上、そのまま希望を継続するかを早めに相談しておく必要があります。 話し合ったことを出来るだけ自分の言葉で書き残しておくことも重要です。

2)肺炎に進行した場合を考えておく:

 通常の肺炎の原因は様々です。細菌性肺炎では抗生剤が進歩して、治癒できるようになってきましたが、耐性菌の問題もあり、また体力が低下していると治療しても改善しない場合もあります。ですからもともとわが国で死因の上位を占めている病気です。
 新型コロナ感染症はウイルスが原因で、現在は、明らかに有効な治療薬はありません。そのため、肺炎になっても基本は対症療法をしながら、回復を期待することになります。また、新型コロナ感染症肺炎は、進行すると急速に重症化する場合があります。さらに、重症化すると長期にわたって入院することが多くみられます。様々な治療で呼吸状態を改善しようとしますが、どうしても改善できない場合、人工呼吸器を付けることを考える場合が出てきます。通常は、主治医の判断で、説明合意の上(本人の意識がはっきりしない場合は家族の了解を得て)付けることになります。

 そのような状況をあらかじめ考えておくことも重要です。
 人によっては、その時の自分の状況(元気な時か、長い闘病で寝たきりになっているか等)で考えが違ってくることもあります。
医学は不確実な科学ですから、治療をしたから100%治る、と言うことは出来ません。しかし、その人の元々の基礎疾患や病気の重症度によっては、ある程度は見通しを言えることもあります。それらを考慮しながら、医療者の説明をよく聞いて、自身の治療に関して希望を書き残すことが大切です。
 欧米での新型コロナ重症者急増の際に、人工呼吸器が不足したことは多く報道されました。日本では、ICU(集中治療室)の病床は欧米先進国に比べて少なく、また地域によって今後差が出ることも考えられます。地域の動向や情報を知ることも重要です。

例えば
〇出来るだけの治療は是非とも受けたいので、人工呼吸器をつける。
〇人工呼吸器を含めた、医療環境に余裕があるならば、積極的な治療を望むが、感染爆発により、機材等が不足している状況なら、積極的な治療は望まない。(自分は十分に生きてきたと感じるから等)。
〇積極的な治療を受けたとしても、今と同じような生活の質を取り戻せないレベルにしか改善しないのであれば、積極的治療は受けたくない。 等々、人によって考え方は異なります。

さらに
 人工呼吸器で改善しない場合、ECMOを装着することもあります。これは人工肺で、一時的に呼吸を止めて肺を休ませることにより、自然治癒力を期待するものですが、2週間程度の長期に渡り、多くの医療資源や医療者による厳重な管理が必要な治療です。もともとの体力や基礎疾患の状況によっては適応がなく、付けることが出来ない場合もあります。また、これも地域にもよりますが、数には限りがあり、条件が整わず装着できないこともあります。

 このように、例えば「出来るだけの医療を望む」という場合でも、具体的には、重症度、基礎疾患の有無や体力などの身体的状況や、医療体制などによって違いがあることを考慮する必要があります。 コロナ禍の状況でも、これを自身の状態を理解し希望を確認する良い機会と捉えて、家族・かかりつけ医・ケアチーム等とよく話し合い、自分の意思を確認し、書き残すことが重要です。

 新型コロナ感染症者にかかわる医療・介護者の現在の状況は、必ずしも時間的なゆとりに恵まれているとは限りません。しかし、だからと言って、治療に関してYES、Noで、答えを急ぐことなく、本来の自身の生き方を再確認し、一人一人が大切にしてきた生き方と状況に合わせた意思の選択を大事にして、後悔のない最期までを生き切っていただきたいと願っています。


自分らしい生き死にを考える会
代表:渡辺 敏恵(医師) 副代表:三浦 靖彦(医師)

『私の生き方連絡ノート【新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する特別公開版】』

私の生き方連絡ノート 簡易版

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